2011年7月15日金曜日

邂逅 その2 〜「我が心いまだ安らかならず」 /バッハ・リヴォリューション

三枝成彰に続くのは、全くもって一部初期のコアなシンセサイザーファンのみが
知る幻のユニット。そのファーストアルバム。



「我が心いまだ安らかならず」
/バッハ・リヴォリューション


オリジナルアルバム/1976年 発表
2000年 CDにて再版(現在は絶版)

日本初のシンセサイザーオンリーのユニット。アルバムタイトルにもなっている「我が心いまだ安らかならず」がフランスISCM(現代音楽協会)の1975年の大賞を受賞した事をきっかけに、当時アルバム「月の光」で日本人で初のグラミー賞ノミネートされた冨田勲に見出され、RCAレッドシールよりこのアルバムでデビュー。受賞作1作ではアルバムには足りないため、新たに「音響詩 "大地震”」と「汝れが魂、悪夢より目醒めよ」が制作された。メンバーは田崎和隆、鈴川元昭に新たな録音の際に加わった神尾明朗の3人。
当時のシンセサイザーは殆どがモノフォニック(音が1音しか出ない)かせいぜい2ヴォイスで、このアルバムはモノフォニックと2ヴォイス音源を多重録音する事によって構成されている。近年のデジタル音源には不可能なアナログシンセの力強くある意味人間臭い音源が多重録音で重ねられる事により、より重厚で深い厚みと迫力を持って伝わってくる。現在の技術を持ってすれば、コンピュータ上で簡単に再現できる環境であるかもしれないが、当時は計り知れない時間と労力、集中力、忍耐力を要する作曲作業であった事は、かつて同じ手法で音楽制作を行っていた私にとっては想像にかたくない。今、改めて聞いてみると、自分の音楽もかなり影響を受けているとひしひしと感じる。日本のシンセサイザー音楽の黎明期を彼ら抜きで語る事は出来ない。
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このバッハ・リヴォリューション、絶対CD化は無理だろうと思っていましたが、サウンドトラック等の作品を除くオリジナルアルバムの2枚のみCD化。
もうこれを提案した方、実現した方には足を向けてねむれません。それ程聞きたかったアルバムです。今では絶対出せないアナログシンセの野太い音がたまりません。いずれも物語り性をもった構成と丁寧に作り込まれたサウンドは今聴いても色褪せる事なく、聞くものに迫る迫力を持っています。決して調性の取れた聞きやすい曲とは言えませんが、人間の持つ心象風景を見事に表現している点は、現在のコンピュータのプリセットループデータで安直に作られる曲とは比べ物にならない説得力を持って聞くものに迫ります。1曲目の「音響詩 大地震」は先日の東日本大震災を思い起こされるリアルさを持って迫ってくる迫力も去る事ながら、発売当時、曲の後半の重低音を音飛びなく再生出来れば、そのレコードプレーヤーは合格、というオーディオチェックにも使われる程の凄い迫力です。人間の持つ哲学性と人間くささを見事に音として表現した彼らの力量には、いまでも脱帽です。

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